ワインの官能評価

ワインの官能評価


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・ワインの品質評価
必要な設備、備品等、テイスティング条件を整える
色と清澄度を評価する
におい(芳香と異臭)を評価する
味を評価する
・全体を評価する



ワインの品質評価

 ワインの品質評価には、機器分析や微生物検査を中心とした科学分析による評価と利き酒(テイスティング)による官能評価がある。両者が揃って初めて、満足のいく評価が可能となる。

 官能評価は、人間が持つ感覚に頼るため、いつも客観性に考慮する必要がある。また、ソムリエ、製造者、消費者、評論家等、それぞれの立場で関心のある内容やレベルが違うことも考慮せねばならない。官能評価は、瓶詰め後のワインを対象にするだけではない。発酵のスタートから瓶詰め後、さらに店頭のワインまで対象となり、とりわけ消費者からの批判的評価はワインの品質向上の鍵となる。

 ワインを飲んだ経験に乏しい人は、正しい官能評価ができない恐れがあり、学習曲線が深く関わる。ワインを飲んで日の浅い人は、容易に評価でき、理解できるワインを好み、経験を積むと複雑性を求めるようになる、すなわち、初心者は、タンニンが少ない、僅かに甘い、低アルコールタイプの白ワイン(例えば、リースリング、シルバーナ、ミュラートゥルガウ)を好み、経験を積むと、よりドライで、花の香りがし、品種特性がある白ワインを好むようになる。次に白ワインから赤ワインへと進み、さらに豊かで複雑なアロマやフレーバーをもつ十分に熟成させた赤ワイン(カベルネ・ソービニヨン)に興味が移るようになる。結論から言えば、ワインの品質はワインの中だけにあるわけではなく、消費者の内にある価値観にも左右されるので、それぞれの人なりに楽しめばよいのである。






必要な設備、備品等、テイスティング条件を整える

 テイスティングはワインセラーで行わないほうがよい。セラーには評価者を混乱させる様々な臭いが存在するからである。適切な照明、白いカバーをかけたテーブル、約240‐mℓ容ワイングラス、口を濯ぐ水、(ワインを吐き出す)容器、筆記用具が定番である。官能評価のタイミングは重要で、ほとんどの人にとって昼飯前か夕食前がよく、1時間以内、12サンプルまでが最適とされる。

 我々は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感でワインの官能評価をするが、まず視覚的評価から始める。





色と清澄度を評価する

 視覚的評価には、ワインの外観(色合い)と清澄度(濁り)が含まれる。若い白ワインは、通常、非常に薄い黄色か、緑がかった黄色をしているが、濃い黄色あるいは茶色ならば、酸化したしるしである。熟成が進むと(あるいは年月が経つと)色の明るさが減り、次第に茶色になる。若い赤ワインは、純粋な赤に近い色をしているが、ブドウ品種によってはオレンジあるいは紫の色合いを帯びている。熟成とともに赤色は茶色みを帯びる。紫の色合いを持つ赤ワインは、高いpH、たとえばpH 3.6以上であるか、過度な熱にさらされたか、あるいは酸化を受けたと思われる。

 正常に製造された健全なワインはさわやかで、きらめいた外観をしている。ワインがくすみ、濁りあるいは霞んでいれば、過剰なペクチンあるいはタンパク質(あるいはタンパク質‐タンニン複合体)による混濁や、バクテリアによって作られたデキストリンの可能性がある。ワインがガスっぽいときもまた微生物汚染の可能性が高い。このような現象が見られるワインは、セラーにおいて再処理するする必要がある。ワインボトルの底に白い結晶があれば、低温処理不足による酒石の沈殿なので、再処理が必要となる。ただし、若い白ワインをグラスに注いだとき、ときどき小さな泡が見られる場合、発酵で残された溶存炭酸ガスの可能性が高く、若さのしるしである。しかし、赤ワインではバクテリア発酵のサインかもしれない。





におい(芳香と異臭)を評価する

 視覚評価を終えたら、ワインのにおいを‘鼻の穴’から嗅ぐ。‘鼻の穴から’には意味がある。鼻で‘におい’を嗅いだ後、口にワインを入れれば、口中の味蕾で味を感じると同時に、口の後ろと鼻が繋がっているので、においを嗅ぐもう一つのルートがあることに留意せねばならない。‘におい’という感覚には二つあるということである。本項では、'フレーバー‘とは口中で感じる味と’におい‘である、と定義し、話を進める。但し、今後、この分野の研究の進歩によって、フレーバーの定義は異なってくるかもしれない。

 ‘鼻の穴’から嗅ぐ‘ワインのにおい’については、ブドウ由来のアロマ、すべてのワインに見つけることができる発酵臭、ワイン製造や熟成中に生成するブーケに分けることができる。ボトルの中での熟成によって生じる‘ボトルブーケ’の生成速度は、貯蔵温度と還元状態(空気との接触のない状態)によって増加する。

 すべてのワインがバラエタルアロマをもつわけでなない。正確に言えば、バラエタルアロマが含まれていても、極少量ならばワインのにおいにはならない。ビニフェラブドウと関連して、最も容易に見つけられるアロマは、テルペノイド化合物とピラジン化合物に由来する‘におい’である。ほとんどのブドウ品種に含まれるが、少数のいくつかの品種には濃縮されて存在するので(例、マスカット・アレキサンドリア)、それらの品種に特有の香りとして有名なのである。もちろん、テルペノイド以外にもいくつかのアロマ化合物があり、これらの化合物それぞれが極少量でも、それらを合わせてある量以上になれば、また各品種ワインに独特の香りとなる可能性がある。

 ブドウ果実の花のようなアロマは、主にモノテルペンと呼ばれる一群の物質である。既知のモノテルペン化合物は300を超え、バラや柑橘類のような芳香を持ち、香水などにも多用されている。ブドウの最も著名なモノテルペンは、リナロールとゲラニオールで、それぞれの含有量は、100~1,500μg/ℓと100~1,000μg/ℓと高い。これらの二つのモノテルペンのにおいを感じる最低濃度(閾値)は、それぞれ100と130μg/ℓと低い。ブドウはモノテルペン含量によって、高濃度(1~3 g/ℓ)に含むマスカット品種、低濃度(0.1~0.3 mg/ℓ)に含むマスカット関連品種(含有量は少ないが、マスカットアロマは顕著)、測定できるほどの量を含まない非マスカット品種に分けることができる。マスカット品種として、マスカット・オブ・アレキサンドリア、マスカット・カネリ、マスカット・ハンブルグ、マスカット・オットネル、マスカット・オレンジ等、マスカット関連品種として、リースリング、シルバーナ、ゲヴュルツトラミネール、ミュラートゥルガウ、ケルナーがある。但し、日本で栽培・収穫された、これらのブドウから造られたワインに、当該アロマが顕著に含まれるかどうかは分からない。

 揮発性のモノテルペンは、また不揮発性で非アロマのグリコシド(モノテルペンにグルコース、ラムノース、あるいはアラビノースが結合し、不揮発性となった化合物)として存在する、というよりもほとんどのモノテルペンは、不揮発性モノテルペングリコシドとして、主としてブドウ果皮に存在する。ブドウ破砕物を発酵すると良い香りがでてくるのは、発酵によって発生した熱や酵素分解により、不揮発性のモノテルペングリコシドが、糖と揮発性モノテルペンに分かれるからである。

 もう一つの重要なバラエタルアロマ成分はピラジン化合物で、最も多量に存在するピラジン化合物は、3-アルキル-2-メトキシピラジンである。アルキル基はイソプロピル、sec-ブチル、イソブチルである。これらの化合物の閾値は、0.002~4 mg/ℓと非常に低い。ピラジンを多く含む食品として報告されている食品は、コーヒー、ポプコーン、ベークトポテト、エンドウマメ、グリーンピース、ピーマン、生のポテトであり、これらの食品の香りでカベルネ・ソービニヨンのアロマが説明されるのである。

 発酵臭は、ワインの背景にある、これは、目立たない‘におい’であるが、すべてのワインに見つけることができ、これなくして酒類は成り立たないほど重要である。エチルアルコールや高級アルコール(フーゼル油ともいう、エチルアルコールよりもやや揮発し難い)、そして250以上のその他の成分が」知られている。それらの多くはエステル類であるが、これらのすべてが発酵臭にあたる。

 発酵臭以外の、ワインの良い香りを説明することは易しいことではない。香り成分は普通非常に微量しか含まれておらず、特定されていない物質のほうがはるかに多く、場合によっては適切な褒め言葉がなかなか見つからないときもある。上述したピラジン化合物でも、微量に存在すればよい香りだが、あまりに多量にあれば不快臭になるとの報告もあり、なかなか厄介である。それに比べて、望ましくない‘におい’を指摘することは容易である。しかし、利き酒会等で、悪い点を指摘し過ぎると、その場の雰囲気を壊すので気分のいいものではない。ただ、悪いにおいの原因の究明と対策はワインメーカー側にとっては死活的問題なので、関連業界や学会をあげて解決に取り組んできたことは、ワイン産業の発展に大いに貢献した。

 ワインのオフ・オウダー(悪臭)は、大別すると、イオウ化合物、微生物、ブドウ、酢酸等に由来する。イオウ化合物由来は、二酸化イオウ、硫化物、メルカプタン、硫化水素が関与する悪臭である。

 必要以上に添加した場合に残る、鼻にチクチク感やくしゃみを起こす二酸化イオウ(SO2、すられたマッチ棒のにおい。恐らく、多くはワインをグラス中で回すと消える)、乳酸菌等の微生物により生じた腐ったタマネギ臭のメルカプタン(CH3SH)、腐ったゆで卵の臭いがする硫化水素臭(H2S)、下水の臭いがする二硫化物臭、等が知られているが、これらの臭気は熟成の早い段階で空気を吹き込めば消失する。

 微生物によって生成された異臭は、カビ臭(樽とブドウ上のペニシリウムカビによる)、酢の臭いの酢酸-酢酸エチル臭(酢酸菌による)、納屋臭(赤ブドウの高温発酵や果皮のバクテリア汚染による)、コルク臭(コルクの保存剤に使われた塩素化合物へのカビの作用による)、ゼラニウム臭(ソルビン酸存在下)、塩漬け発酵キャベツ臭(乳酸菌による)、ウドンコ病菌臭(ウドンコ病菌感染のブドウ由来)である。

 イオウ化合物や微生物が関与する悪臭以外に、ブドウの搾りかすの臭気である澱臭、小樽での過剰な熟成から生じた過度の木香(赤ワインでは問題ないが、白ワインではよくない)、ゴム臭(高いpHのブドウを使った時)、エタノールの空気酸化で生じるアセトアルデヒド臭、等が挙げられる。





味を評価する

 次の段階は、口にワインを入れることである。この段階で、対象ワインの揮発酸度、酸度、ボディー、甘さ、苦味、渋み、全体のバランス、異味等をチェックする。

 口中の舌と喉の奥の味蕾の味細胞が呈味物質(味物質)によって刺激されたときに生じる感覚は味覚と定義されている。前述したが、ワインの世界では、フレーバーとは口中の’味とにおい‘と定義する研究者が多い。舌の感覚を示すテイストマップ(舌における味覚地図)というものがある。このマップで、舌の先で甘味を感じ、舌の中ほどで酸味を感じ、舌の横で塩味を感じ、舌の奥のほうで苦味を感じると学んだことを覚えている人は多いであろう。多くの成書にもこのような記述がなされている。どうもこれは間違っているらしい。

最近の研究によれば、動物は大脳皮質の嗅覚野と味覚野(すなわち味覚と嗅覚)を別々に機能させているのではなく、情報のやりとりが行われ、一体化されているようである。物を口に入れたとき、においによって味の大部分が作られているにもかかわらず、味覚という言葉を使っているらしい。口の後から上がってくるにおいのほうを味と間違えている、とのことである。’あじ‘というのは、におい、味、辛さ(唐辛子、触覚で感じる)、渋み(お茶等、触覚で感じる)の統合されたものを表現するようである。

 ワインには3つの基本味、酸味、甘味、苦味がある。これら以外に、ポルトガルのリスボン近くの大西洋岸コラレス地区のワインに塩味を稀に感ずるとの報告があるが、通常、塩味は考慮しなくてよい。

 甘味は、生まれたての赤ん坊から子供、そして大人まで、人間だけでなく他の動物まで本能的に好きな味らしい。我々が、酸味、苦味あるいは塩味をもつ食品や飲料に対して鑑賞力を持つのは人生の半ばからとのことである。甘味は、糖(主にグルコースとフルクトース。フルクトースのほうが甘い)、エチルアルコール、グリセロール(グリセリン)等によって主にもたらされる。ワインの甘味に対する糖の閾値(糖を感じるのに必要な最小刺激量)は0.75%~1.5%、約1%である。以前なされたカリフォルニアでの調査によると、アメリカ人の約半分はドライワインよりもスイートワインを好む。甘味はワインの欠点を隠し、ワインに滑らかさを与える。しかし、粗さ、異味等の欠点を隠すことを、テーブルワインの厳格な鑑評者が嫌う。ワイン製造者にとって、糖は救いの神で、粗い味で品質がよくないワインに0.5 g~1.0 g/ℓの糖を加えれば、ワインを甘くせず、味をよくすることができる。ワインの一大産地、山梨県のあるワイナリー経営者が、「甘味をつければ売れますよ。赤ワインだって甘味のほうが売れるなあ」と呟くのも当然かもしれない。それぞれのワインにおける糖濃度は習慣的なものである。一例を挙げれば、ほとんどのポートワインは10~14%の糖を、スパークリングワインは約1%~3%の糖を含む。

 天然のブドウ果実酸(主に酒石酸とリンゴ酸)による穏やかな酸味は、他の飲料の酸味とは明らかに異なり、この酸味は食事とよく合い、洋食の脂っこさを絶妙に和らげる。かつての日本人は、ワインの酸味を嫌ったが、食事とともにワインを飲用すれば一般消費者の酸味に対する拒絶反応はほとんど生じない。ワインに酸味がなければ味は極端にフラットになり、フレッシュさやフルーティーさはなくなるであろう。しかし、酸が必要ととはいっても、むやみに多く含むのが良いわけでなく、ワインの種類によって、当然、適量に差がある。赤テーブルワインでは、タンニンが酸味を際立たせるので、あまり多い酸は適当でない。デザートワインでもまた過剰の酸度は望ましくない。それは、甘酸っぱい味になるからである。これに対してドライの白テーブルワインでは酸が高いほうがよく、フレッシュでフルーティーな味には高い酸度がしばしば要求される。香りや味の面はともかく、酸がなければ、ブドウマストがバクテリア腐敗を受け易い上に、発酵しない可能性すらある。酸が少ないとpHが高くなるので、ワインの赤や黄色の色調もまた保持できない。

 苦味ほど、ワイン消費者の経験によって評価に差が出る味はないであろう。経験を積めば積むほど正しく評価できるようになる。ワインの苦味はブドウ果皮、種子、梗(茎)から抽出されるフラボノイド、タンニンともいう)に由来する。ほとんどの白ワインは非常に低いタンニン量しか含まないので、苦味はないが、若干の若い赤ワインやある種のデザートワインは非常に苦い。苦味は他の味よりも後に残る傾向があり、後口あるいは後味に寄与する。若く、僅かに苦いワインは食中また食前に飲むのに適する。それは、食欲を満足させるのを苦味が防ぐからである。酸味や甘味は苦味を隠す傾向にある。若い赤ワインが僅かに甘いとき、より柔らかな味と感ずるのはこのためである。タンニンは、ワイン中で抗酸化剤として働き、瓶熟成の間、酸化し過ぎるのを防ぐ。赤ワインを十分熟成すれば、不快とは感じない僅かな苦味を持ち続ける。

 渋みは、苦味ではなく、ワインの感触である。口中でドライと感じ、あるいは口をすぼめる感覚である。舌のタンパク質と渋み成分、タンニンが反応することにより生じる粗さである。滑らかなワインは渋みのないワインであり、粗いワインは、柿渋のように渋みが強いワインである。

 ワインのボディーは、粘性による厚みの感覚(感触、質感)である。ワインに溶存するすべての物質がボディーに寄与するが、アルコールが舌上で持つ重み効果と加温効果によってもたらさせる、といってもよい。低アルコールワインは、低いボディーあるいは薄い質感を持つといわれる。甘さが高ければ、肥えた舌をもってしても、ワインのボディー(アルコール度)を区別するのは難しい。ドライワインではアルコール(エタノール)がボディーに最も寄与し、甘口ワインでは糖もまたボディーに寄与する、といった感じである。

 フレーバーに対応するワイン用語として、オフ・フレーバーがある。文字通り、不快なフレーバーである。オフ・フレーバーの起源は、様々である。たとえば、過熟のブドウを用いたワインは、高いpHで、単調で、茶のようなオフ・フレーバーをもつ。逆に、未熟なブドウを用いれば、アルコール濃度が低く、過剰な空気と接触させた場合、あるいは熱が加わったときには不快で、腐ったような、風味のない酸化された臭いがする。バクテリアに侵されれば金気臭があったり、苦味が強いワインとなる。





全体を評価する

 ワインの「全体評価」を、「バランス」あるいは「総合的品質」という人もいる。ワイン全体のバランスのことであるが、多くの基準がある。良いバランスとは、酸味、甘味、苦味の心地よい比から生まれるが正確な比があるわけではない。ワインの後味や後口もまた重要である。

 さて、ワインの評価は、ヨーロッパでもアメリカでも、20点法で行うのが一般的である。ワインの「外観」は、濁りの有無で2点(全体の10%)、「色」は、標準から離れているか否かで判定し2点(10%);「アロマとブーケ」は、品種特性があるかないか、異臭があるかないかで判定し4点(20%);「揮発酸(酢)」は、酢酸と酢酸エチル臭で判定し2点;「酸味」は正常か否かで判定し2点(10%);「甘味」は、適正か否かで1点(5%);「ボディー」は、正常か否かで1点(5%);「フレーバー」は、各ワインタイプで正常か否かで判定し2点(10%)、「苦味と渋み」は、正常か否かで判定し2点(10%);最後に「全体的な印象と後味」で2点(10%)、計20点(100%)となる。8点以下なら販売をためらい、9-12点なら商品になり、13-16点なら健全なワインであり、17-20点ならエクセレントといったところである。

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