更新日:2023年12月18日

日本ワインのぶどうの品種


・ブドウの品種について
・世界のブドウの起源
・第1グループ:アメリカ系(非ヨーロッパ系)
・第2グループ:ビニフェラ系グループ(ヨーロッパ系)
・第3グループ:非ビニフェラ・日本系交配種


 

ブドウの品種について


瑞々しいブドウ瑞々しいブドウ 日本ワインとは、ブドウを植物分類学的に記述すると、植物界→被子植物門→双子葉植物綱→バラ亜綱→クロウメモドキ目→ブドウ科→ブドウ属ということになる。ブドウ科には11属があり、ブドウ属はVitisである。世界のほとんどのワイン用ブドウはVitis vinifera(ビティス・ビニフェラ)で、またヨーロッパブドウとも呼ばれる。Vitis viniferaはカスピ海地方を起源とし、少なくても5,000年間栽培されてきた。この長期間になされた品種選抜がブドウの多様性を生み出し、品種数は5,000あるいはそれ以上にも達し、今日でもなお多数の新品種が生まれている。品種を英語でcultivarというが、これはcultivated varietyの短縮形である。

しかし、世界的な重要品種は200-300程度で、産業的には恐らく約150品種が最重要と考えられている。一方、わが国では、栽培面積と収穫量から類推すると、約20前後の品種がワインビジネスとして重要なのであろう。

2013年(OIV資料)の世界のブドウ栽培面積(生食用+ワイン用)は7,436,000 ha、ブドウ収穫量は69,584,000トン(生食+ワイン)、ワイン生産量は26,743,000kℓ、ワイン消費量は24,434,000kℓであった。世界的には、1 haあたり9.36トンのブドウが収穫され、ブドウ1kg(キログラム)から約0.6 ℓのワインが生産された。一方、2014年の日本のブドウ栽培面積は17,300 ha、収穫量は189,200トンであったが(1 haあたりの収穫量は10.94トン)、多くのブドウは生食用に出荷された。


 

世界のブドウの起源

世界のブドウの起源をたどれば、西アジア種群(後にヨーロッパ系栽培種となる)、北アメリカ種群(アメリカ系栽培種)、そして東アジア種群(この群の栽培化は進まなかった)がある。世界のワイン産業にとって最重要品種はもちろんヨーロッパ系ブドウであるが、加えて、アメリカ系ブドウは、フィロクセラ(ブドウ樹の葉や根にコブを生成してブドウ樹の 生育を阻害し、やがて枯死に至らせる昆虫、別名、ブドウ根アブラムシ)抵抗性品種として、ヨーロッパ系ブドウ樹の台木として、またヨーロッパ系品種との交雑種(フレンチ・ハイブリッドあるいはダイレクト・プロジューサーという)を育成するためになくてはならない。

大きく実ったブドウ大きく実ったブドウ

一方、アメリカ系ブドウの故郷である北アメリカ東部とわが国の気候風土(冬期に寒く、ブドウ生育期に高温、多雨)が類似していることから、アメリカ系ブドウは日本で栽培しやすく、わが国のワイン産業にとって重要なポジションを占めている。

ワインのフレーバー(口中でのにおいと味)とアロマ(ブドウに由来するにおい)に基づくと、日本の主要なブドウ品種は次の三つのグループに分けることができる。第1グループはアメリカ系(非ヨーロッパ系)のフレーバー(フォクシーアロマあるいはラブルスカのにおい)をもつグループ、第2グループはマスカット、あるいはそれぞれの品種に独特のフレーバーをもつビニフェラ系グループ(ヨーロッパ系)、そして第3グループは強い特徴的なフレーバーをもたない非ビニフェラ・日本系交配種である。以下の各ブドウ品種に関するコメントは適切な気候風土において栽培、収穫されたブドウを用いて製造されたワインの典型的な官能的特徴を述べたものである。


 

第1グループ:アメリカ系(非ヨーロッパ系)

第1グループは、ナイアガラ、デラウェア、コンコードに代表される。いずれもアメリカ系品種で、ビティス・ラブルスカフレーバーとフォクシーアロマをもつ。ブドウ樹の耐病性は強い。このグループには、また他のアメリカ系品種、及びアメリカ系×ヨーロッパ系交配種もある。フィロクセラ(根アブラムシ)の被害で大打撃を受けたフランスで、ヨーロッパ系のビニフェラブドウとアメリカ系のラブルスカ種台木を接ぎ木しないで自根栽培できるフィロクセラ抵抗性品種を育成しようと、ビニフェラ種とラブルスカ種を交配したものがフレンチハイブリッドである。日本で栽培されている主なフレンチハイブリッドはセイベル5279、セイベル9110、セイベル13053である。

赤ワイン用品種:
コンコード Concord
〔アメリカ原産ラブルスカ種(別名:fox grape)。1849年、米国マサチューセッツ州コンコードで野生ブドウの種子をまいたことに始まる。赤ワインのほか、生食用として、また果汁製造にも用いられる。ワインはフルーティーで飲みやすい、若飲みタイプ。長野が主産地〕。

セイベル Seibe1 13053
〔カスケードともいう。セイベル7042×セイベル5409の交配種。主に北海道で栽培。耐寒性が強く、安定した収量をあげることができる。早熟性。ウドンコ病に抵抗性が強いが、ベト病には注意が必要。香り・コクはやや乏しいが飲み易いワインとなる〕。

白ワイン用品種:
ナイアガラ Niagara
〔北アメリカ北東部の白ワイン用交配種(コンコード×キャッサデー)。フォクシー・フレーバーが強い。フルーティーで心地よい甘口ワインがよい。ジュースの原料にもなる。北海道、長野、山形が主産地〕

デラウェア Delaware
〔アメリカ原産のラブルスカ×アエスティワリス×ビニフェラ自然交雑種。日本では白ワイン及び生食用ブドウ(ジベレリン処理・種無し)として定着。甘口のフルーティーな若飲みタイプに人気。山形、山梨、大阪、島根で多く収穫される〕。

セイベル5279
〔セイベル5279(セイベル788×セイベル29)は別名Auroreという。早く発芽し、早く成熟する。熟すとフォクシーフレーバーがでる。ベト病と黒斑病に感染しやすい。主に北海道で栽培〕

セイベル 9110
〔生食とワインの兼用種。フルーティーなアロマと爽快なフレーバーのワインとなる。耐寒性、耐病性に優れ、栽培しやすく、豊産タイプである。主として北海道、長野、新潟で栽培〕。


 

第2グループ:ビニフェラ系グループ(ヨーロッパ系)

第2グループには、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、ケルナー、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ツヴァイゲルト・レーベ、ピノ・グリ、ピノ・ノワール、ピノ・ブラン、ミューラー・トゥルガウ、メルロー、リースリング等があり、世界の高品質ワインといわれるほとんどのブドウ品種がこのグループに入る。フレーバーは下に述べたものよりずっと複雑でデリケートであるので、ここでは以下のように単純化してまとめてみた。

これらのブドウ品種とは別に、マスカットのフレーバー(ビニフェラ種で、強い特有なかおりと花のようなアロマ)をもつ品種群があるが、日本では主要栽培品種となっていない。

赤ワイン用品種:
カベルネ・ソーヴィニヨン Cabernet Sauvignon
〔カベルネ・フラン×ソーヴィニヨン・ブラン交配種。晩熟だが、個性的な香りが豊かで後味が深い。タンニンが多く、渋みのある濃厚なワインで長期熟成に向く。山梨、山形、長野が主産地〕。

カベルネ・フラン Cabernet franc
〔カベルネ・ソーヴィニヨンによく似たブルーベリーのような香りと、柔らかな渋み、豊かな酸味を持ち、軽やかでピーマンを思わす香りがあり、おとなしい感じのワインが多い。岩手、長野、山梨で産するが、収穫量は少ない〕。

ツヴァイゲルト・レーベ Zweigeltrebe
〔オーストリアで交配された黒ブドウ。ブラウフレンキッシュ×サン・ローラン交配種。際立ってフルーティな香りが特徴。早飲み用の若々しいワインから傑出した高級ワインまで幅広いスタイルを生み出す。北海道に多く産する〕。

ピノ・ノワール Pinot noir
〔あざやかな鮮紅色で、熟したイチゴ、ベリー様の果実香と風味をもつ。タンニンは控えめだが酸が豊かで繊細かつ芳醇な味わいがある。温暖な気候では色やフレーバーが安定せず、冷涼な気候を好み、北海道、長野、青森を中心に栽培されている。収穫量は少ない〕。

メルロー Merlot
〔早熟で育てやすく、熟したイチゴやベリー様の果実味が豊かでまろやか、丸みがあり早く飲める。熟成により豊かなブーケを得る。世界的に人気があり、いたるところで栽培されている。カベルネ・フランやカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドされる。長野、山形、兵庫、山梨が主産地〕。

白ワイン用品種:
ケルナー Kerner
〔トロリンガー×リースリング交配種。フルーティーでかすかにマスカットの香りがする。リースリング種に似た香りをもち、概ね良質の白ワインとなる。主に、北海道で栽培される〕。

シャルドネ Chardonnay
〔多様な気候下で熟するため、世界各地で栽培されている。冷涼地では白桃、温暖な気候の下ではパイナップルのような香りになる。豊かなボディをもつが特に強い個性をもたない。長野、山形、兵庫等、日本各地で栽培されている〕。

ソーヴィニヨン・ブラン Sauvignon blanc
〔晩熟なので比較的温暖な気候を好む。香り・味わいとも、はっきりした若々しい青さがあり、スモーキーな複雑さが加わったフレーバーになる。ピーマンのようなアロマはメトキシピラジに由来する。長野と島根が主産地だが、量は少ない〕。

ピノ・ブラン Pinot blanc
〔ピノ・ノワールの変種で、主に白ワインに使われる。穏やかな香りが特徴で、フレッシュでさっぱりとした若飲みワインになる。山形と長野で産するが収穫量は少ない〕。

ミューラー・トゥルガウ Müller-Thurgau
〔リースリング×マドレーヌ・ロワイエの交配種。リースリングと比べエレガントさに欠けるが、早熟多産で栽培しやすい。軽やかな若飲みタイプ。酸味に比較的乏しい。北海道が主産地。〕

リースリング Riesling
〔柑橘系の果物やミネラルの香りがし、熟成により新たな香りを帯びる。フルーティーさと豊かな酸味を持ち、辛口から極甘口の貴腐ワインまでの多様なスタイルのワインを生みだす。冷涼な気候に適す。秋田、山形が主産地だが、量は少ない〕。


 

第3グループ:非ビニフェラ・日本系交配種

第3グループには、甲州、マスカット・ベーリーA、ブラック・クイーンとヤマブドウがある。これらのうち、ヤマブドウ以外の3品種は、品種に特有の強い際立ったフレーバーやアロマに欠け、ワインの酒質は並だが、単位面積当たりの収穫量や耐病性に優れ、日本ワイン界になくてなならないブドウである。

赤ワイン用品種:
マスカット・ベーリー A Muscat Bailey A
〔アメリカ系ベーリーと欧州系醸造・生食兼用品種で、日本の赤ワイン生産において主要な地位を占める。アメリカ系ベーリー×欧州系マスカット・ハンブルグの交配種。鮮やかな赤色、まろやかな味わいの、渋みの少ないワイン。マスカット香はない。全国的に栽培されているが、特に山梨で多く収穫される〕。収穫量の約80%はワインになる。

ブラック・クイーン Black Queen
〔赤ワイン用品種であり、ラブルスカ種ベーリー×ビニフェラ種ゴールデン・クィーンの交配種。このブドウのワインは、濃い紫色の、酸味の強い、厚みのあるボディー、濃縮感のある果実味があると謳われている。長野と岩手が主産地だが収穫量は少ない〕。

ヤマブドウ Yamabudo
〔ブドウは原生地によって、アジア西部原生種(ビティス・ビニフェラ種)、アメリカ東部原生種(ラブルスカ種等)、アジア東部原生種(アムレンシス種、コアニティー種)、交雑種(ハイブリッド)に分かれる。古来より日本の野山に自生しているヤマブドウはビティス・コアニティーに属し、その収穫量は、岩手が最も多く、次いで山形、北海道、岡山が次ぐ。岩手のヤマブドウの収穫量は加工専用品種の全収穫量の54%を占めるが、1haあたり約2.5トンしか収穫できていない。普通のブドウ栽培品種は雌雄同株であるが、ヤマブドウは雌雄異株。最近、ヤマブドウの重要性が見直されている。たとえば、セイベル13053のクローン選抜から生まれた清見Kiyomiとヤマブドウとの交雑種である山幸Yamasachiは耐寒性に優れ、北海道池田町の厳寒に耐える〕。

白ワイン用品種:
甲州 Koshu
〔生食・ワイン兼用品種であったが、ワイン専用品種になりつつある。欧州系ビニフェラ×東アジア系野生種の交雑種。多湿な日本においても栽培が容易で耐病性が強い。果皮の色はピンクだが白ワイン用品種。軽い果実香、中性的香気、フレッシュ、フルーティータイプのおとなしいワインに仕上がる。製造技術の多様化により甘い香りのもの、酵母臭のある辛口のもの、多様な香味のものがでてきた。収穫量の約95%は山梨、そのほか、山形、島根、大阪で産する〕。


 

まとめ

2003-2013年の栽培面積と収穫量がともに増加しているブドウ品種は、コンコード(アメリカ系)、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン(以上ヨーロッパ系)、ヤマブドウ(東アジア系)。

両者の増減がない品種は、ツヴァイゲルトレーベとメルロー(ヨーロッパ系)、甲州(日本系)である。

栽培面積と収穫量が減少し、将来が見通せない品種は、ミューラートゥルガウ、ケルナー(以上ヨーロッパ系)、セイベル系3種(フレンチハイブリッド)、ナイアガラ、デラウェア(アメリカ系)、ブラック・クイーン、マスカット・ベーリーA(日本系)であると思われ、将来、本稿で紹介できなかった品種と入れ替わる恐れが十分にある。

最後に、北海道のブドウ栽培に触れる。可能性を秘めた広大な北海道で栽培されている主要な品種、ツヴァイゲルトレーベ、セイベル、ピノ・ノワール、ケルナー、ミューラー・トゥルガウの単収を他地域の同じ品種の単収と比較すると、ツヴァイゲルトレーベを除いてかなり低く、品種によっては数分の一でしかない。大規模栽培や寒冷気候に起因する栽培性の問題を克服し、採算性の課題を改善すれば、日本ワインの原料問題の解決になると期待が膨らむ。


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