47年目のゲヴュルツトラミネールの涙。鶴沼ワイナリー 2026年冬の記録

「鶴沼ワイナリー」通信
2026年1月~3月
北海道 鶴沼。日本最大級の広さを誇るこの圃場が、もっとも静かに、そして力強く次のヴィンテージへの準備を整える1月から3月の様子をお届けします。
2026年1月
凍てつく空と白銀の世界の始まり



2026年の幕開けは、例年になく穏やかでした。
年末には積雪がほとんどなく、土が見える景色に少しの違和感を覚えていましたが、年が明けて1月6日、ようやく本格的な冬が到来しました。一気に60cmまで積み上がった雪は、圃場を鶴沼らしい冬の景色へと変えてくれました。
しかし、雪はブドウ樹を寒さから守る毛布でもあります。積雪が遅れたことで、剪定後の枝が雪から顔を出している箇所があり、スタッフの間では「凍害」※への緊張感が走りました。
「凍害」とは、樹体の耐えられる低温を下回る温度にさらされ続けると発生し、発芽不良や枝枯れ、幹の裂傷・枯死などにつながる被害のことです。

1月22日、極寒の早朝。
刺すような寒さと痛みに耐えながら、圃場の向こうから昇る日の出を拝みました。まさに“早起きは三文の徳”。寒さを忘れるほど神々しい光が、雪原を黄金色に染め上げる瞬間は、ここで働く私たちだけの特権かもしれません。

1月29日。日中は氷点下の予報が続きますが、空は見事なまでの青。
“鶴沼ブルー”とも呼びたい澄み渡った空と、目が眩むほど真っ白な雪のコントラストは、この季節にしか見られない絶景です。
2026年2月
雪の下で刻まれる時間


2月中旬、積雪量は95cm。
昨年の150cm、一昨年の190cmという驚異的な数字に比べれば、今年は雪が少ないという印象を受けます。とはいえ、1メートル近い雪の下でブドウ樹たちはじっと春を待っています。雪の重み、冷たさ、そして静寂。この過酷な環境こそが、鶴沼のワインに独特の酸とエレガンスを与える源泉となります。
2026年3月
覚醒の兆しと自然との共生


3月に入ると、季節の針が急激に動き始めます。
3月3日、白樺の根元から少しずつ土が顔を出し始めました。それと同時に、ブドウ樹も雪の中から姿を現します。
しかし、春の訪れは喜びだけではありません。雪が減り、食べ物を探すウサギたちが、防護ネットのない場所を狙ってブドウの樹皮を食べてしまう「食害」が発生。自然と共に生きることの厳しさを、改めて実感する季節でもあります。


3月16日、雪の中から、剪定を終えた「結果枝」がようやく顔を出してきました。
しかし、広大な鶴沼の圃場では、日当たりや斜面の向きによって雪解けのスピードは千差万別。ある区画では枝が見えていても、別の区画ではブドウ樹がまだ深い雪の中に眠っているなど、融雪具合の差がはっきりと現れるのもこの時期の特徴です。

近年の積雪データを見ると、平年値がわからなくなるほどの変化を実感します。3年前は80cmあった雪が、今年はほぼ消えかかっています。
3月25日、日当たりの良い斜面のミュラー・トゥルガウやオーセロワ(AM)の区画からは、いち早く土の匂いが立ち込めてきました。



3月31日、圃場の雪はすっかり姿を消しました。
ここには、樹齢47年を迎える「ゲヴュルツトラミネール」があります。冬の間、深い雪の重みに耐え、地面に押し付けられるようにして「ぺっちゃんこ」になっていた老木たち。
しかし、剪定した枝の切り口を覗くと、そこにはキラリと光る雫が。「水上がり」です。大地から吸い上げた水分が、枝の先まで届き始めた証拠。
私たちはこれを「ブドウの涙」と呼ぶこともあります。
どんなに厳しい冬を越えても、ブドウ樹は再び目覚め、新しい生命を育み始めます。
2026年シーズン 始動
雪が消えた今、鶴沼ワイナリーのスタッフ一同、気持ちを新たにしています。
「今年も良いブドウが収穫できるように」
その願いを胸に、1本1本の樹と向き合い、丹精込めた栽培がいよいよ始まります。
2026年ヴィンテージの物語は、いま始まったばかりです。どうぞご期待ください。
鶴沼ワイナリー 栽培チーム一同
冬の鶴沼からの便りを受け取り、改めて北海道のテロワールの厳しさと美しさを感じています。特に、樹齢47年という長い年月をこの地で過ごしてきたゲヴュルツトラミネールが、雪に押し潰されながらも力強く水を吸い上げる姿には、生命の神秘を感じずにはいられません。
積雪量の変化や野生動物との共生など、栽培現場は常に自然との対話の連続です。その試練を乗り越え、スタッフの皆様が手塩にかけて育てるブドウが、2026年も素晴らしいワインへと昇華されることを今から心待ちにしております。